物理十話 モノと生命

新講座

江本 伸悟講師

物理十話 モノと生命 について

この講座は終了しました。

物理十話

科学の目的は、この自然の隅々にまで沁みわたっている生命を発見していくことである、そう述べたのは、夏目漱石の弟子として知られる物理学者、寺田寅彦であった。科学者としての眼をつうじてこの世界の風景を楽しんだ寅彦は、しばしば道ばたに咲いている花冠を顕微鏡で覗き込んでは、その内部で繰り広げられている生命の現象に驚き、喜んでいた。

私たちの身辺には、いまだ私たちが気づいていないような多くの生命現象が満ちている。そうして、これまで気づいていなかった生命の存在に気づいたとき、私たちはなんだか嬉しくなる。この喜びこそが、科学という営みの本命なのである。自ら命を絶ってこの世を去ろうとしている人々が、もし道端に咲く一輪を手に取り、その花冠のなかへと佇む生命に気付くことができたなら、彼らは踵を返してこの世へと戻ってくるだろう、そう述べたこともある寅彦にとって科学という営みは、まさに人々へと生命の喜び、生きる希望をもたらす学問なのであった。こうして生命の発見、それに伴う喜びこそを求めて物理学を営んだ寅彦は、自らが発見した生命への驚異ならびに歓喜の気持ちを、漱石譲りの文才によって多くの随筆のなかへとしたためている。寅彦の手にかかればそれまで生命を感じられなかった物理現象、例えば金平糖の角や、線香花火の火花のうちにまで生命が感じられてくるから不思議である。

自然に満ちた生命、あるいは心の発見を試みる科学の営みは、今もなお続いている。植物の知性、ダンゴムシの心、カニの群れに宿る意識、地球の生命。科学のまなざしは、かつて人々の眼におぼろげにうつっていた生命や心のすがたを、いま確かなものとして捉えつつある。このたびの講座では、こうした科学者の眼にうつる生命、心の姿を紹介したい。みなさんが今まで見過ごしていたかもしれない生命を、ひとつでもふたつでも発見し、そこに喜びを感じていただければ嬉しく思う。

小学生からおじいさんおばあさんまで幅広い方がいらっしゃる講座です。物理学や科学にまったく初心者のかたでもご心配ありませんので、是非お気軽にいらっしゃってください。

予約受付終了

物理十話 モノと生命 講座情報

講座名
物理十話 モノと生命新講座
講師
江本 伸悟講師物理学者
日時
2016年3月27日(日)
15:00-17:00
場所
記憶の蔵
文京区千駄木5-17-3
JR西日暮里駅徒歩13分
千代田線千駄木駅徒歩8分
参加費
3500
定員
定員未定

『物理十話』について

物理学とは何でしょう。
それは、この世界の真理に触れんとする学問のようでもあり、この世界の美しさを描きださんとする芸術のようでもあります。またそれは、頭をつかって物事を考えていく思索のようでもあり、身体をつかって物事に触れていく行為のようでもあります。

いずれにせよ物理学においていちばん大切なことは、その眼差しのさきにこそあります。
私たちが棲まうこの世界、その豊かな表情に覚醒していくこと、そのための学問であり、芸術であり、思索であり、行為です。

本講座では、物理をめぐる十話を通じて「物理とは」を問い掛けることで、
みなさまと眼差しを重ね、「物理学の風景」を共有していきたいと思っています。
一話一話は独立したテーマを扱っており、それぞれが単独で楽しめるようになっております。